末吉清一
沖縄県工芸士 / 平成13年 認定番号22
- 昭和36年11月25日伊是名島にて誕生
- 12歳まで伊是名島で過ごす
- 16歳で宜野湾のガラス工房でアルバイトを始める。
- そのガラス工房のアルバイトで学費を稼ぎながら定時制の高校・大学で8年間“電気”を学ぶ。
- 大学時代に行った北海道の小樽で宙吹きガラスの第一人者、浅原千代治さんに弟子入りを申し込むが断られる
- 大学卒業時に他の就職を真剣に考える
- そしてガラス職人を選択し、琉球ガラス村に就職。
- もし選択していなければ幼稚園の先生になっていただろう…。
釣り
末吉さん趣味は釣り。作品には釣りに関連したものも多い。今にも動き出しそうなカジキマグロ。ワクワクするほどしなって大きな獲物を捕らえている釣り竿。海原を自由に飛びまわる海鳥をイメージした飛翔。銀河シリーズは宇宙がテーマだがきっかけは慶良間諸島に釣りに行った時に“月光照る浜辺から見上げた夜空”に感動したこと。
今回の作家展のためにつくった「ブルーマリンの憂鬱」は久米島旅行で本人が見た“巨大カジキを釣り上げた夢”がモチーフ。夢の中で釣竿が折れるほどしなってカジキと格闘した感覚は今でもはっきり覚えているとのこと。末吉さんはかなりの太公望のようですが、残念ながらまだ大物カジキを釣り上げたことがありません。
一度トローリングに参加したことがあるそうですが、那覇港を出て慶良間あたりに行くのかなと思っていたら通り越して、はるか沖まで船は10時間走りっぱなし。ヒットは1回あったのですが…逃がした魚は大きかったようです。「一度はハワイのブルーマリンのカジキ釣り世界大会にでてみたい」と少年のような目をして熱く語ってくれました。“寝ている時に見た夢”を実現させる日がいつか来ることでしょう。ちなみにリールは“アメリカ製のペン0/6(ロクゼロ)”を使って大物が来るのを待っているそうです…。
バッド
末吉さんは野球も好きです。社内の草野球チームのエースで主力メンバーです。しかし、ここで悩みがひとつあります。チームのメンバーの高年齢化と仕事の方が忙しくて、なかなか集まれなくなってきたのでした。仕事が一段落したら(すぐに次の大きい仕事がきそうですけどね…)若いメンバーも入れつつ、楽しんでいきたい。残念ながらそれまではバットを置くとのこと…。
沖縄では2月にプロ野球のキャンプに沢山の球団が集まります。琉球ガラス村では2003年から横浜ベイスターズのオープン戦に琉球ガラス製のオリジナルグッズの記念品を贈呈しています。ベイスターズと対戦チームのチームカラーに合わせたバットやグローブなどを作っていたのは、何を隠そう末吉さんでした!金属バットを置いたかわりにガラスバットを作っていたのでした。
同じ温度
ガラス作りで一番難しいことは?という質問に対し末吉さんは「グループで仕事をする時に全員が同じ出来上がりイメージを持つこと」と答えました。自分一人で作っていく一点ものは(助手は付くことがあります)、自分のイメージ通りに作っていくことができるが、量産していくには複数の職人で時間の短縮をしていかなくてはならない。後輩たちの技術のアップはもちろんであるが、どれだけ同じイメージをもって、同じ熱意・温度で作業できるかで完成度が違ってくるということです。
一人前になるには10年かかるというこの世界ですが、それに達する前の若い職人のスキルアップも不可欠。なかなか口で言ってもわからないことも多く、末吉さんは後輩に2年前に作ったグラスと今作ったものを比べさせてその成長をチェックさせ、自分自身で気がつかせるという指導もしている。
若造が普段首からさげている琉球ガラスの玉が底に入っているグラスを作家展で見つけました。末吉さんの作品で、グラスを作っている途中にガラス玉をくっつけるというか、埋め込むそうです。わかったつもりでうなずく若造に末吉さんは「今、首からさげているのはすぐ割れちゃうよ。グラスとガラス玉を同じ温度にしなくちゃね…」と説明してくれました。…職人もガラスも同じ温度でなくてはいい作品はできないのである。
感じる器
気持ちや風景、自然など感じることを表現していくのが末吉さんの作品コンセプト。「匂いや風の音まで感じる器を作りたい」といつも思っているそうです。たとえば道を歩いていて虹が見えたらガラスで作ったらどうなるだろうなどと“感じることをどう表現するか”を常に考えているそうです。
平成5年にガラス特有の製法を活かし、瞬間的な技術で作った花瓶『ガラスのカーテン』は沖展で奨励賞をとりました。驚くべきことは、それとそっくりな花瓶をイタリアのベネチアのムラノ島のギャラリーで見つけたそうなんです。作者はベネチアガラスの巨匠“ベニーニ”。「すごい偶然が重なったんですね」という若造の言葉に末吉さんは「単なる偶然ではないよ。時代は違うけど職人は同じこと考えているのさ」と答えました。 そして末吉さんは自らの『ガラスのカーテン』をベースに太陽が沈む姿をイメージした『落陽』を製作、平成8年に沖展の準会員賞を受賞しました。
今後の予定を伺うと、近々ではランプの笠を雨傘に見立てた『雨やどり』。誰を雨やどりさせるのかが楽しみです。そしてその後の大作には『銀河シリーズ』を実際の星雲に合わせて作ってみたいとのこと。赤い星雲やガスの渦など末吉さんの頭の中には既にイメージが出来上がっているようです。
聞き手:和家若造